蒼氓(そうぼう)

  山下達郎の曲のタイトルになっている言葉だ。
  芥川賞を受賞した石川達三の同名小説のほうが
  知名度は高いかもしれないけれど,
  山下達郎の説明によれば,「無名の民」を意味するという。

  8月最後の1週間,単発バイトを2つやった。
  たまたま,両方が選挙関連の仕事だった。
  守秘義務とやらで詳しく書くことはできないが,
  2つの仕事を通して,無数の「名もなき人々」が
  選挙という政治イベントを支えている事を知った。
  (この場合,候補者を支援するボランティア等は
   除かせてもらおうかな)

  もちろん,私が接点をもった人というのは,
  ごくごく一部,ほんの一つまみばかりの数である。
  ただ,ある女性の仕事ぶりが忘れられない。

  一定数のサンプルデータを収集して,
  それを定期的に報告するのが彼女の業務だったが,
  悪天候にたたられて,思うように数を稼げない。
  そういう条件下ではしかたのない事だし,
  「一定数に至らなくてもOK」という指示も出ていた。

  でも,彼女は最後まで気に病んでいた。
  「きちんとお役に立てなくて…」
  と,幾度も詫びの言葉を口にする。
  電話の向こうで頭を下げている様子が目に浮かんだ。
  「Aさん,とても頑張ってくれたじゃありませんか。
   雨の中大変なのに…感謝してますよ」
  業務の最後のやりとりで,私がそう言ったら,
  「ありがとうございます」と彼女は泣き出してしまった。

  愚直に生きてる人なんだろう。
  こんな人が報いられる世の中だといいな。
  遠い南の島に思いを馳せた。

  政権交代が実現した,「歴史的な選挙」らしい。
  でも,政治は変わらない。
  古代・中世・近世・近代…いつの時代も,
  権力が「無名の民」を振り返らなかったように。
  (もっと云うと,“踏み台”にしてるんだがな。
   搾取の源ねっ お金 )

  TVも小説も,歴史上著名すぎる人物しか採り上げない。
  人々が愛し,尊敬するのも,歴史的ヒーローだね。
  尤も,「無名の民」には史資料が残ってないからな… 落ち込み

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