2009年になってから、ふみ用の日記を書き始めた。
  その日食べたゴハン(猫缶の種類も明記)と量。
  ゴハンに混ぜた薬の種類(腎不全用か癌用か)。
  トイレでの大・小(現実には馴染みのトイレまで行けず、
  居間と廊下に敷き詰めたシートの上で頑張っていた)。
  ―― 毎日、時間単位で記録するようにした。

  癌の判明は前年の5月なのだから、
  “闘病記”をつけるにはあまりに遅い。
  今でも、もっともっと早期に始めるべきだったと悔いている。
  ただ…なんというか…病状が進行しながらも、
  心のどこかで『奇蹟』を信じてたんだよね。
  腫瘍が消える…あるいは
  消えるなんて事は無理でも、長く生きられるとか…

  日記は、1月中はけっこう整然と書いていた。
  時間がない場合は、メモに走り書きをしておいて、
  後でノートに写す。
  でも、2月に入ってからはノートに清書する余裕が
  みるみる無くなっていった。
  病状悪化の速さについていけず、
  ノートの記載より、走り書きのメモのほうが増えていく。

  後でノートにちゃんと記録するつもりでいた。
  “後”って、いつ…?

  ふみが煙になり、無人の部屋に戻ると
  彼女専用の生活用品と共に、ノートが残っていた。
  頁の間にはさんだメモの量が随分ある。
  見直すことができなかった。
  当然、ノートへの転記もまるでやってない。
  この2年、一度も開いていないノートだ。
  いつか、いつか、泣きながらでも完成させよう。
  確約はできないんだけどさ…ふみちゃん。


    ふみ勝負顔