一年前は
幸せだったな。
幸福感の期限は短い。
婆猫ふみちゃんが逝って、もう15年。
今は自分が人生休止中。ミライは10歳シニア猫です。
もし朝が来たら
グリーングラスは霧の中で調教するつもりだった
こんどこそテンポイントに代わって
日本一のサラブレッドになるために
もし朝が来たら
印刷工の少年はテンポイント活字で
闘志の二字をひろうつもりだった
それをいつもポケットに入れて
弱い自分のはげましにするために
もし朝が来たら
カメラマンはきのう撮った写真を社へもってゆくつもりだった
テンポイントの最後の元気な姿で紙面を飾るために
もし朝が来たら
老人は養老院を出て もう一度
じぶんの仕事をさがしにいくつもりだった
「苦しみは変わらない 変わるのは希望だけだ」
ということばのために
だが
朝はもう来ない
人はだれも
テンポイントのいななきを
もう二度ときくことはできないのだ
さらば テンポイント
目をつぶると
何もかもが見える
ロンシャン競馬場の満員のスタンドの
喝采に送られてでてゆくおまえの姿が
故郷の牧草の青草にいななくおまえの姿が
そして
人生の空き地で聞いた希望という名の汽笛のひびきが
だが
目をあけても
朝はもう来ない
テンポイントよ
おまえはもうただの思い出にすぎないのだ
さらば
さらば テンポイント
北の牧場にはきっと流れ星がよく似合うだろう
寺山修司『旅路の果て』より
苦しみは変わらない。やはりそうなのか?
苦悩は堅牢な塊で、可塑性がないのか…
変えられる希望。
変わる未来。
しかし…私の絶望は見事な塔になったよ。
もうすぐ空まで届く筈。