四月は、漆黒の季節だ。
ふみが逝ってから、そうなった。
夜空に浮かび上がる桜は美しいが、
その背後の大きな漆黒のほうに、
気持ちが吸い寄せられてゆく。
桜が咲いても散っても、
春は、闇が近い。
心に陽射しが届く事はない。
四月に入ってまもなく、
激しい咳込みが止まらなくなった。
四年に一度ぐらいの周期、
オリンピック・ペースで訪れる、
「咳喘息」だろうか。
これでは、電車に乗ってはいられない。
無職になってよかったとしみじみ想うが、
同様の理由で、
競馬場の雑踏に身を投じる訳にもいかない。
そのぐらい、周りに迷惑な咳なのよ。
灯りを点けず、薄暗い部屋の中で、
春が通り過ぎてゆく。
(2022年4/3 阪神競馬場)