大野くん探しの過程で、
彼のチラシを見た人から「可愛~い♪」と言われると、
嬉しさより戸惑いを感じたものです。
「捜索中の猫をほめられても…」と、
そんな心境で複雑な気持ちになったのではありません。
同居人として、大野くんの容貌を
「可愛い」範疇に入れてなかったんですよね。
キャッチャーミットのように分厚い手は、私です…
大野くんの顔は、ファニーフェイスというのかな。
コミカルな顔立ちだと私は受けとめていました。
「ふみと比べちゃうからかもしれないけど、
率直に言うと、ルックス面ではそれほどでもない仔だね」
―― なんと、大野くんを私のために保護してくれた親友に、
こんな失礼な言い方をしていたのです。
ひゃあ~!!この罰当たり。
あ。そうだよ、遂に昨秋、天罰が私に下ったんじゃないか?
大野くん探しを始めてから、
「とても似ているキジトラ」が目撃され、
その情報をもとに、該当する猫に対面を果たす度に
(不思議なもんで、「猫違い」キジトラとは遭遇できるのです)、
「尻尾、口周り、主要な特徴は一致しているけど、顔が違う」
という体験が重なっていきました。
顔の違い…そう、大野くんは、もっと愛嬌のある顔なのっ
声に出して言うことはできません。
だって、彼のことを気にかけてくれていた人が、
見つけようとして、教えてくれた成果なんだもの。
そこに感じるのは、落胆よりも、ありがたみです。
逢えば、わかる。
言い換えると、逢わなければ判らない。
季節は、早くも夏へとペダルをこぎ始めたようです。
日がのびて、職場から地元の駅に着く時刻、
まだ陽射しが去りきらず、
少しずつ明るさが残るようになりました。
家路をたどっていると、大野くんの姿に出逢えそう。
そんな気持ちが、懲りずに育っていきます。
部屋でお腹を空かして待つミライを気にしつつ、
あえて歩調をゆるめて、住宅街を歩いていきます。
低い声で小さく歌いながら、ゆっくりと…
いつも、キミのことを想いながら、歌っているんだよ。