かくれんぼ

   ミライが避妊手術を受け、退院した翌日。
   入院中の鬱憤とエリザベスカラーのストレスで、
   人間のほうがまいってしまう程、
   騒いで暴れまくっていたミライが、ようやく、
   少しだけ、ほんの少しだけ落ち着きました。

   布団の上にカラーをうまく傾けて、
   眠りに落ちているミライの、小さな手をそっと握る。

   術前にツメは短く切ってもらっていました。
   そのツメの奥が、微かに赤くにじんでいる事に、
   退院から丸一日経って、ようやく気づきました。
   
   出血とまではいきません。
   入院中、ケージの中で懸命に、
   あちこち引っ掻いていたのでしょう。

   右も左も…赤くにじんだ前足を撫でながら、
   胸が痛み、そしてミライを愛おしいと、想いました。


美猫らしいぞ

   
   大野くんが帰って来なかった10月8日の早朝、
   ミライはいつも通りのミライでした。
   「お兄ちゃんが居ないこと、気にならないのかな?」
   こちらの脳内が恐慌状態になっている事など、
   当然察知する訳もなく(たった5か月ちょっとの子供)、
   相変わらず、外で遊ぶことを優先していたミライ。

   “異様な胸騒ぎ”を覚えていたくらいだから、
   もっと警戒態勢をとるべきなんだけれど、
   まだ大野くんが帰宅する可能性を重視して、
   開放できる所は、すべて開放して出社していました。

   大野くん不在のまま60時間が経った部屋へ、
   仕事から戻った10月10日夜、
   黒絵だけが待っていて、ミライは居ません。
   「まだ遊びに夢中なのか…」

   8月あたりに「あいつはもう“半野良”でしかたないな」
   と、さじを投げてしまったところが人間側にはあり
   (大野くんは、決してミライを見放さなかったのに)、
   その夜も、あまり心配はしていなかったのです。
   頭は大野くんの事でいっぱいだったし…。

   2時間後、ミライが帰ってきました。
   やけにプンプンして、不機嫌なお嬢さま。
   そして、寝る仕度を始める頃になって、
   ようやく気づいたのです、“異変”に。
   
   少々、エグイ写真を出すことをお赦しください。

   グロじゃないけど、ダメそうな人はご用心。
   スルーしてください。

   ―― このぐらい、下に出せば、大丈夫…?
















   

   
2013年10月10日





   でかいサイズで、しかもけっこう惨い写真を、ごめんなさい。

   こりゃまた、どこでどんな風に遊んできたんだ?
   無理やり狭い所を通ろうとしたか、
   派手に滑り落ちたんだろうか。
   このお嬢さんの木登りの様子は、山猿の如しで…。

   とにかく、人間用の薬で消毒するのは躊躇してしまい、
   かといって、このまま放っておくのも心配なので、
   翌日会社を早退して(遅刻⇒午前中診療がベストだけど)、
   動物病院に連れて行きました。
   大野くんのチラシを貼りだしてもらう、依頼も兼ねて。

   ドクターは、ミライの口元を見るなり、
   「あ~これは、このままでも大丈夫ですよ」と即答。
   え…消毒薬か塗り薬などは…?
   「塗ったものを舐めてしまうほうが良くないし、
    この状態なら、何もしなくても心配ないです」
   そして、丁寧にミライの口元を再確認して、ひと言。


   「ただ、これは何だか、人工的な感じがするなあ」



   そう言われてみれば、血もにじんでなかった。
   毛がごっそり剃られているだけで、これは、傷跡ではない。
   ミライ自身、少しも痛がってなかったもの。

   そうだ。冷静に考えたら、
   こんな風に毛がきれいになくなっていて、
   かつ傷らしきものが残っていないのは、“不自然”だ…!

   だいたい、食い意地の張ったミライが、
   夕食時に待機していないほうが、不自然だったんだ。

   その後、ミライを保護した友人と話し合いました。
   たぶん、私が帰宅する少し前、30分~1時間前には、
   ミライは誰かにつかまっていた。
   そして、シェーバーのような物で、毛を剃られた…

   あのすばしっこいミライでも、エサで簡単に釣られるでしょう。
   問題は、あんなやりづらい部分を剃っている事、わざわざ。
   もし自分が、イタズラ心で犬や猫の毛をいじるとしたら、
   モヒカンにします(そういう事は絶対しませんよ!)。

   最初は、子供のイタズラだろうか?と考えたけど、
   意外な難度と部位から、今では大人の仕業
   (中学生・高校生も入るかな)だった、と予想しています。

   “犯人さがし”はしていません。
   大野くんの件も含め、声をあげる事が許されない、
   そういう御近所なのです。


   それにしても、その人間は何がしたかったのかなあ。
   約3時間、ミライを支配下に置いた状態で、
   実行した事といえば、面倒な部分の剃毛だけ。
   写真ぐらいは撮ったかもしれないですね。

   首輪はそのままだったから、外せなかったんでしょう。
   安物だけど、ちょっと着脱にコツの要る首輪。
   
    
 
戸惑う大野くん


   あの頃のミライは、だいぶツメが伸びていたから、
   彼女は一生懸命抵抗して、相手を引っ掻いて、
   それでやっと逃げ出せたのかもしれません。

   大野くんが居たら、誰かにミライを連れ去られるような、
   そんな事態は絶対阻止しようとしたよね。
   ミライのことを、守ってくれてたんだもの、いつも。

   妹のことは暫し、この不手際の多い私が
   守らせていただきますが、お兄ちゃん。
   あなたが早く帰って来てくださいよ…

   ミライと私とみんなの願い。